祖父の面影

(雪国に出張したときの話)

雪の降る街に来て、待ち時間の会議室が寒いので電気ストーブを入れてもらって仕事をしている。非常に静か。この雰囲気ってどこかで体験したことがあるよなあ。
さいころ家で祖父が仕事をしていた風景に似ている。彼は休日も家の一番端にある書斎、あるいは離れと呼ばれる部屋でたくさん会社の帳簿を持って帰ってきて仕事をしていた。その寒い部屋にも電気ストーブが1つついていた。私はよくその部屋に遊びに行った。彼は無口なので何か私に構うわけではないのだが、来てはいけない、とは言わなかった。そこで小さい几帳面な数字がたくさん書かれた書類を読みつつパチパチそろばんを弾いているじーちゃんをずーっと見ていた。夕方になるとテレビで相撲をつけそれを見ながら仕事をするので、なんとなくその相撲を見ていた。相撲って始まるまでが長いなあ、と思った記憶がある。
そこでかいだ臭い、書類と、タバコと、じーちゃんと、そして電気ストーブが混ざった臭い、それがここの会議室で電気ストーブをつけてもらって漂う臭いによく似ている。

もう35年くらい前の話になる。