死の壁/養老孟司

死の壁 (新潮新書)
もともと誰かに語っている内容を文章に起こして本にした、という「バカの壁」第2弾なので語り口は非常にやさしく、簡単に読める本でした。

ただ、彼がこの本で言おうとしていることにいくつか激しくうなずくことがありました。

昔は自分と他者の境界は今ほど明確ではなかったのではないか。当時に比べて現在は人の意識の中で「個」の領域が非常に拡大されて認識され、それが個人の「死生観」に大きな影響を与えているのでは、ということ。

「一人の人間の命は地球より重い」というもっともらしい言葉の欺瞞。自分もこの言葉を信じていましたが、彼は本当はそうじゃないと主張します。確かにそうだ。

死には3種類あり、「自分の死(1人称)」「親しい人の死(2人称)」「知らない人の死(3人称)」1人称の死をこの世で考えても絶対に答えは出ないのだ、ということ。2人称の死が現代では日常から遠ざけられ、よって交番に掲示される今日の交通死者など実態のわかない「3人称の死」が現代の「死」の主な形態になってしまっている、ということ。

自分が死について考え悶々としていたとき、それはいつも「自分とは?」という問いと表裏一体だったと思います。彼の言うところの「1人称の死」を考えていたので出口がなかったのだと思います。しかしいつかもコメントで書きましたが、「2人称の死」を何度も経験して、「死」は怖いけどそれに対する認識を得ることができ、少なくとも怖くて怖くて判断停止ではないのが今の状態なのかな、と。

最近死のことばっかり書いていますね。暗いなあ。。。